ダンディライオン たんぽぽコーヒーで心身を清める

 日ごとに春の兆しを感じつつも、まだ余寒が続く早春の頃。冬のあいだ寂しげな銀色だった庭にタンポポが咲き始めると、私たちの世界に春の喜びが立ち現れます。金色の花がいつの間にかふわふわの綿毛になって風に舞う軽やかな姿は幻想的です。
 タンポポは、春の季節のような目覚めを私たちの心身と共有し、心とからだを清めるために最適なハーブです。根を土から掘り出して「たんぽぽコーヒー」を淹れると、私のなかに滞っていたものが穏やかに流れ始めるようです。

もくじ

可愛らしい、かつ太陽のようにエネルギーのあふれるたたずまい

 タンポポは子どもの頃から見慣れている、ありふれた草。年齢を重ねたせいでしょうか、春を待ち侘びていた分、その黄色くて可憐な花とふんわりとした綿毛に、私はより一層目を奪われます。
 見ているだけでも心躍りますが、有用な”薬草”と知ってしまったら、居ても立ってもいられなくなります。庭に生えているタンポポを採取してみたいと思いました。
 タンポポは英名でダンディライオンといい、数多くの種があります。外国原産の種はセイヨウタンポポが代表的です。日本在来の種はカントウタンポポ、トウカイタンポポ、カンサイタンポポなど約20種が知られています。


 葉はギザギザしているのが特徴で、地面に広がるように生えています。形は生育環境によって変化が大きいので、葉のみで種を判別することは難しいとのこと。
 そこで、見分けるときは花の裏側に着目します。花の付け根にある総苞のうち、一番外側が反り返っているものが外国原産の種で、反り返っていないものは日本在来の種。調べたところ、私の目の前に咲いているタンポポはおそらくセイヨウタンポポ(Traxacum officinale)だと思われます。
 花は昼に開き、夜に閉じます。花が咲き終わると地面に倒れ、14日ほどで結実すると再び起き上がります。そして種は風に乗って散っていきます。

「ダンディライオン」、「タンポポ」の名の由来

 ある伝説では、地の妖精たちが人間に踏みつけられないようにタンポポに姿を変え、妖精の宿ったタンポポは超自然的な生命力を持つと言われました。
 ダンディライオン(Dandelion)の語源はフランス語のdant de lionで、葉の形がライオンの歯に似ていることに由来しています。
 属名のTaraxacumはペルシャ語の「苦い草」を語源とする説や、ギリシア語で混乱(taraxo)を癒す(takos)という意味に基づくとする説など諸説あるようです。
 平安時代の辞書『和名類聚抄』(わみょうるいじゅしょう)では、タンポポの漢名である「蒲公英」に「田菜(たな)」という和名があてられました。江戸時代には、茎を水につけると両端の反り返る様子が鼓(つづみ)に似ていることから「鼓草(ツヅミグサ)」と呼ばれるようになります。「たな」が「たん」に転じ、綿毛がほほける「ほほ」が加わり、鼓を打つ音と結びついて「タンポポ」になっていったという説があります。タンポポという発音も可愛らしいです。

ダンディライオンはデトックスに有用

 ダンディライオンは世界の多くの民間伝承で語られている薬草です。中国では7世紀以来、生薬として使用され、西洋では15世紀の古書『Ortus Sanitatis』に初めて登場した比較的新しいメディカルハーブです。
 ダンディライオンはデトックス(解毒)を助けるハーブの代表格です。根と葉に含まれるタラキサシンという苦味成分に腸と肝臓の働きを高める作用があります。消化液の分泌を促し、有害物質を分解し、尿や便として排出するプロセスを促します。春の若葉を食べることは、冬から春への心身のリニュアルに最適です。
 また、水溶性食物繊維のイヌリンが腸内細菌の栄養源になり、腸内の環境を改善することに役立ちます。腸のバリア機能が高まると有害物質の侵入や再吸収を防ぐことにつながります。

このようにダンディライオンは腸や肝臓の働きを高める作用と腸内環境を整える作用があり、相乗的にデトックスに優れたハーブとして知られています。消化不良やそれによる腹痛や頭痛、便秘、むくみの改善、アレルギー、関節リウマチ、糖尿病の予防などにも活用できます。
 私たちの身体は代謝において本来備わった解毒システムがあります。けれども、代謝が滞ると老廃物が溜まりやすくなり、内臓の働きも低下して、便秘、冷え、むくみ、肩こり、肌荒れなどの不調となって現れます。ダンディライオンによって解毒システムを円滑にし、これらの不調を改善することが期待できます。

*胆道閉鎖、重篤な胆のう炎、腸閉塞には禁忌です。またキク科アレルギーの方は注意が必要です。

たんぽぽコーヒーの飲み比べ

 ノンカフェインコーヒーとして知られる「たんぽぽコーヒー」は、ダンディライオンの根を乾燥させ、コーヒーのように焙煎して細かく挽いたものです。浄血作用と母乳の出を良くする作用もあるので、妊娠・授乳期の母たちのあいだでも好まれています。
 市販のたんぽぽコーヒーには多種類あり、シングルまたはブレンドのハーブティーとして飲むことができます。デトックスを目的とするブレンドハーブティーにはダンディライオンが多く使用されています。シングルの場合、コーヒーのようにローストの度合いで味の濃さに違いを感じます。好みの濃さやブレンドを探してみるのもハーバルライフの楽しみの一つです。

たんぽぽコーヒーの作り方

 庭のタンポポ(セイヨウタンポポ)でたんぽぽコーヒーを作ります。根は予想外に地中深くに伸びているいて、驚くほどです。掘り起こす作業や乾燥させて焙煎するのは時間と手間がかかります。でもだからこそ、たんぽぽコーヒーを口にできるまでのすべては瞑想的で、感情と精神を整えるひとときになります。

【材料】
ダンディライオンの根(Taraxacum officinale) 3g
熱湯 150ml

【作り方】
1根をよく洗い、完全に乾燥させる。
2細かく刻み、5〜10分ほどまんべんなく煎る。(フライパンまたはオーブンでローストします。)
3コーヒーミルで粉状に挽く。
4ティーポットに入れた粉状のダンディライオンの根に熱湯を注ぎ、10分間抽出する。

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