ウイルスと共に生きる

免疫を整えるためのハーブ実践に飛び込む前に、風邪などの感染症を引き起こす「ウイルス」というものについて一度考えてみたいと思います。

ウイルスはとても小さいがゆえに目に見えない存在。ときに人を死に至らしめてしまうこともあります。だから私たちはウイルスに対して恐怖感を抱くのは当然のことかもしれません。けれども、ウイルスを脅威としてしまうほど過剰に恐れるのならば、少しでもその恐怖感を和らげるための視点を持つ必要があるのではないでしょうか。

特にハーブ療法の実践においては、ウイルスをやっつけたり、避けたり、排除したりしようとする方向性は、ハーブ療法の本質から外れてしまいます。ハーブは私たち自身の免疫を整え強化するために使ってこそ本領を発揮します。もしウイルスを人間にとっての敵とみなすならば、セルフケアの指針は全く違ったものになってしまうのです。

ウイルスへの強い恐怖感や憎悪感があると、その感情自体が免疫力を下げるばかりか、ハーブを対症療法のように使ってしまう可能性も生んでしまいます。ハーブを使ったセルケアの目的が単に医薬品の”代わり”にハーブを使うことだとしたら、抗ウイルス作用を持つハーブや精油を選んで一時的に使うだけになるでしょう。ハーブの使い方として、それほどもったいないことはありません。

また、強い恐怖感は医薬品の乱用の可能性を高めてしまいます。緊急を要する場合など、医薬品が本当に必要なときはもちろん除きますが、不必要な医薬品を漫然と過剰に摂ることは私たちの本来の生命力を弱めてしまいます。それは長期的な健康のためにはなりません。

ウイルスに対する恐怖感を少しでも緩めるためには、視点を変えることです。そこで、生物学の視点からウイルスをとらえてみます。

ウイルスは細胞を持たずエネルギー代謝しないので細胞レベルで言えば非生物です。しかし人間の細胞に住み込み、移り増えながら遺伝情報を伝達するという動きは生き物としての振る舞いそのものです。

私は学生時代に生物学のなかでも特に遺伝子について研究していた時期がありました。ミクロの世界に触れながらいつも感じていたのは、「みんな一生懸命に自分のいのちを生きている」ということです。この体験がウイルスという存在を脅威としない感覚を私に思い出させてくれています。

ところで、ウイルスについて考えるとき、「ガイア理論」のことを思い出しました。というより、いつも心のどこかで私はガイアのことを考えている気がします。ガイア理論とは、地球(ガイア)は一つの生命体であり、すべてのあらゆる生命が複雑に影響しあいながらホメオスタシス=恒常性を保ち続けているという考え方です。

ガイア理論という言葉を初めて知ったのは「地球交響曲(ガイアシンフォニー)」というドキュメンタリー映画を観た2002年頃だったと思います。その映画のシリーズ第4作目にイギリス人の生物物理学者ジェームズ・ラブロック氏が登場し、ガイア理論のことを説きました。映画全体の主題と、彼の生命観に深い共感を得たことを今でもよく覚えています。

ガイア理論によれば、ウイルスも人間も、あらゆるいのちは母なる地球ガイアに共存する仲間です。相手を敵視し戦おうとすればするほど、ウイルスも人間も含めたガイア全体が苦しくなってしまうのです。自然の摂理に従うのならば、お互いに共存して生きていくにはどうすればよいかという姿勢をもつことなのではないでしょうか。

「動的平衡」著者であり、生物学者の福岡伸一氏によると、ウイルスは私たち生命全体の進化の一部であるとのこと。生命全体にとって不必要なものは何一つないのです。もしウイルスが無ければ人間も無い。それを知ることです。

私たちのからだは、微生物、植物、動物、太陽や月などの天体、あらゆるすべての生命とつながっています。どんな環境変化があっても、永続的に心身共に健やかに生きるには、例えばウイルスのような生命体の一部を分断したり排除するのではなく、どんな仲間とも「共に生きる」意識を持つことなのです。それが、自分自身の免疫を整えることのほんとうの意味なのではないかと私は思います。

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