春を待ちわびながらも朝晩の寒さがまだ身に沁みる頃、ほっと一息つきたいときには温かい「マサラチャイ」が飲みたくなります。
マサラはヒンディー語で言うスパイス(香辛料)のこと。シナモン、カルダモン、クローブなど芳香の強いスパイスを粉状ではなく丸ごとのホール(whole)の状態で煮出します。紅茶とブレンドして牛乳や豆乳を加えると、香り高く美味しいマサラチャイを作ることができます。
人生の面白さは、時にスパイスのような刺激的な物事の体験にこそあります。それでも人生物語の次の章に進もうとするとき、マサラチャイがからだと気持ちを温めてくれます。
混ぜ合わせると、美味しくなる
マサラチャイを作ろうと、一つ一つのスパイスを手にとってみる。すると、それぞれ独特の香りがします。
シナモンは馴染みのある香り。シナモンロールやアップルパイなど、お菓子作りによく使うからでしょう。カルダモンはカレーをすぐに思い出させ、ほんのり甘いと同時に少しツンとした香りもします。クローブは子どもの頃に行った歯医者さんのにおい。(クローブは歯の形をしていて歯痛に使われるのは興味深いです)息子に嗅がせると逃げられる刺激臭です。
それなのに、丁寧に淹れたマサラチャイはなんという芳しい香りがして美味しいのでしょうか。
単体では独特で刺激的な性質のものが、混ぜ合わさることによって調和する。
複数のスパイスがブレンドされたマサラチャイにはこの不思議による美味しさがあります。
本場インドではどこの家庭でも独自のレシピがあるようです。もともとは質の良くない紅茶を美味しく飲むための工夫としてスパイスが加えられたことが始まりだそう。紅茶にもこだわると美味しいマサラチャイの探求は終わりそうにありません。
からだを温めるスパイス
マサラチャイは、ホットミルクティーの並びで嗜好飲料としてのイメージが強いです。けれどもスパイスの原料植物にはそれぞれ薬効があるため、広義ではマサラチャイは健康維持を目的とするメディカルハーブとしての活用法の一つとも言えるのではないでしょうか。
マサラチャイで用いるシナモン、カルダモン、クローブ、ジンジャー、スターアニスなどのスパイスに共通するのは、血液の循環と消化機能を促進する作用です。
たとえば、セイロンシナモンCinnamomum zeylanicum。スリランカ、南インド原産のクスノキ科の樹木の樹皮で、数千年前から東西の伝統医学に用いられました。
血の巡りを促し、食欲不振、消化不良、吐き気、鼓腸、風邪による咳や発熱に作用を発揮します。(メディカルハーブとして用いる場合は樹皮に少なくとも1-2%の芳香成分を含むものを用いる必要があります。)
近縁種のカシアCinnamomum cassiaは中国原産の桂皮と呼ばれる生薬で、漢方医学においての解熱鎮痛剤、健胃剤として用いられます。
マサラチャイのレシピ
からだに良くて、美味しい飲み物を作りましょう。
【材料】
シナモン 1本
カルダモン 2つ
クローブ 2つ
生姜(生)2スライス
スターアニス 1つ
紅茶(セイロン)ティースプーン中盛り2 (約3g)
水 140ml
豆乳 130ml
黒糖 小さじ1〜2杯くらい(お好みの量)
【作り方】
1 シナモンは手で大まかに折って砕き、カルダモンは指でつぶすか木の棒などで叩いて割る。
2 鍋に水と全てのスパイスを入れて褐色になるまで煮出す。
3 火を止め、紅茶を入れて2分間置く。
4 豆乳と黒糖を加え、沸騰直前まで温める。
5 茶こしで漉しながらカップに注ぐ。
6 スターアニスを浮かべる。
マサラチャイの紅茶にはセイロンを選びました。紅茶は私はダージリンが一番好きなのですが、チャイのときはセイロンかアッサムがやっぱり合います。
人生になくてはならないスパイス
マサラチャイを飲んでいたら、英語のことわざで、”Variety is the SPICE of Life”という言葉を思い出しました。
色々なことが、人生を面白くする。落ち込み、やるせ無い思い、苦汁をなめることこそ、人生物語をより味わうためになくてはならないもの。
凡庸な日常と刺激を与えるスパイスのような経験が混ざり合わないと、人生ストーリーは決して盛り上がることはないのです。
「スパイスそのものは刺激的で苦いですね。でも人生全体では美味しくなっているんですよ。
だから今日のスパイスに感謝を。」
マサラチャイを一口ずつすすると、星の姿をしたスターアニスがそう教えてくれるのでした。