風邪のための自然療法を探求する前に、最も大切なことがあります。それは、風邪とは心身の偏りを調整するためのものであり、自然に経過させるという姿勢を持つことです。
そのためには生命力(自然治癒力)が活動的な状態にする必要があります。食事や睡眠を整えることはもちろん、からだを温め、雑多な物事を取り除き、心身の浄化につとめて暮らすことです。
そのような土台においてこそ、ハーブやアロマなどの自然療法を実践し、効果が発揮されるものだからです。
心身の調和のために風邪をひく
風邪をひくと咳や鼻水が出て、頭痛や腹痛がしたり、時に熱が出ます。鼻が詰まると苦しいし、倦怠感は厄介です。けれども、それが去ってゆくと、なんだか身も心もスッキリする。そんな経験から分かるように、風邪とは「心身の調和を整えるための働きである」と言えます。
私たちはウイルスという共存者をうまく活用して心身を浄化し、生命の質を高めているのです。
だから風邪は、心やからだの偏りや使いすぎ、疲労・ストレス・毒素や老廃物が溜まっている状態にかかりやすいというのはごく自然なこと。
ちょこちょこ風邪をひくことでデトックス(排毒)と調整がおこなわれているのだと考えると、それは心身が鋭敏な証拠であり健康的です。逆に生命エネルギーが停滞し、その鈍感さによって全く風邪をひかないというのは、偏りが戻されず浄化が行なわれない分、いきなり大病をしやすいのかもしれません。
「風邪の効用」という言葉があるように、心とからだの均衡を保つための風邪は、末長く健やかに生きていくために必要な生命の働きなのです。
風邪は治すのではなく経過するもの
風邪は心身を整えるためのプロセスです。だから流れるようにスムーズに経過させたいもの。
ところが鼻水や咳の煩わしさ、痛みや恐れなどに耐えられず、自然に経過することを忘れて早く治そうとしてしまうのが人間です。
それでも、熱が出るならより温めて出し切る。痰や鼻水が出るなら抑えるのではなく出し切ることです。からだという自然の働きを見守り、待つのです。
風邪が自然にだんだん治ってゆくことと、風邪の症状を一時的に抑えて素早く治すことの違いを知ることです。時と場合によっては医薬品の助け船を借りることもあるかもしれません。しかし風邪の自然な経過をからだの外側から無理矢理止めてしまったら、風邪の目的が最後まで果たされなくなってしまいます。
一生健康でありたいのならば、風邪が静かに過ぎ去ってゆくのを見送ることのできる自力を養っておくことです。
生命力を呼び覚ませ
風邪の効用と同時にもう一つ大切なことは、「心身を根本的に活性化すること」です。
風邪の流行期、なぜウイルスをもらう人ともらわない人がいるのでしょうか?あるいは、ウイルスをもらって、高熱を出す人もいれば、くしゃみ1回だけで済む人がいるのはなぜでしょうか?
それは、「生命力(自然治癒力、免疫力)」の状態による、というのは周知の通りです。
排毒や心身の調整が必要であるならば、ウイルスを取り込りこんで風邪をひき、心身の浄化が始まります。
生命力が円滑である状態を保っていれば、いくらウイルスの中に飛び込んだとしても、浄化するものがないので風邪はすぐに何処かへ行ってしまいます。
また、心の状態も生命力に大きく影響します。
最も影響的なのは、ウイルスを脅威として過剰に不安や恐怖を抱くことです。その心理状態が免疫に大きく反映されます。
小さな子どもの母親ならば、お母さん自身が不安がらずにやさしく見守ってあげることが、子どもの生命力、治癒力にきっと良い影響を与えるのではないでしょうか。
人間の生命力はそんな柔なものではありません。
風邪を予防やケアのためにあらゆる健康法がありますが、断片的な方法論に走る前に、自分自身の生命力を喚起することにつとめることが大切です。
ライフスタイルを整えることから
では具体的にどうすれば良いのでしょうか。それは、風邪に対するお手当ての方法に重点を置くのではなく、どのように暮らすかという毎日の基本的なライフスタイルを整えることです。
食事、睡眠、体を動かすことはじめ、太陽の光のエネルギーを浴びる、深い呼吸、リラックス、心地よい生活環境、良好な人間関係、やりがいのあること、自分らしい生き方をすること、、、
つまり心・からだ・魂が喜ぶ毎日を過ごすことです。満点にはできなくても、純度の高い生命力を呼び覚ますためにより良く暮らそうという姿勢を持つこと。それが健やかな風邪のひき方には欠かせないのです。
まとめ
風邪とは心身の調和を整えるための働きです。その過程がスムーズに流れるように見守り、風邪を経過させることが大切。
風邪をうまくひくには生きる力を活性化することが基本であり、そのために暮らし全体を俯瞰し生命力を目覚めさせたいものです。
ハーブ療法やアロマセラピーは、このような暮らしの土台を整えるため、そしてより健やかな日々を過ごすために実践されます。そのとき、自然の恩恵を最大に得ることができるはずです。
【参考文献】 野口晴哉「風邪の効用」ちくま文庫 (2003)