カモミールの想い出

息子との想い出に添える花に、カモミールほどふさわしいものは他にありません。家庭での手当てに役立つハーブはたくさんありますが、なかでもカモミールは息子が赤ちゃんの頃から慣れ親しんだものだからです。そして母である私の心の支えになり続けてきた花。それがカモミールなのです。

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母と子のハーブ

妊娠・出産、子育てのための自然療法を夢中で学ぶなか、私はカモミールに出会いました。 スキンケアに有効、かつ赤ちゃんの肌にもやさしいハーブと知り、小さな息子と一緒にカモミールのお風呂によく入ったものでした。大きなカモミールティーの中で私たちは至福のひとときを共にしました。

新米ママの毎朝の仕事といえば、お手製のおしりふきをつくること。抽出した浸出液つまりハーブティーにコットンを浸したものです。カモミールの可愛らしい花の香りに包まれながら、柔らかい息子のおしりを撫でました。おむつかぶれやあせもなど、子どもによくある皮膚のトラブルにほとんど困らなかったのは、カモミールのおかげだと思います。

緊張・不安にカモミール

「カモミールの温湿布」は、息子と一緒に過ごした日々の、特別に忘れられない一頁です。息子は小学生になると学校へ行く気分になれない日が多くありました。”学校はへんにきんちょうするんだ。おれはおうちで好きなことを好きなだけしていたいんだ。” そんな気持ちを言葉ではなく体で表現するかように、息子のお腹は度々不調を起こしました。毎週月曜日の朝に決まってお腹が痛くなるのは、胃腸の機能的な問題ではなく、本心をわかってほしいという彼なりの心のサインでした。

緊張や不安からくるおなかの不調にはカモミールは最適。それを思い出した私はカモミールの温湿布をせっせと用意しました。温湿布はハーブティーを淹れる手順と同じだから、いつでも手軽にできます。お湯をたっぷり沸かして、洗面器にカモミールティーをつくる感じです。

やさしい花の香りの湯気が立ち込める、黄色くて小さな温泉の出来上がり。そこにタオルを浸して軽く絞ります。昔ながらの喫茶店で出てくる、あの熱々のおしぼりをほぐすような仕草をしながら湿布の温度を確かめます。そして、その温かい布をお腹にゆっくりと当てていきます。息子は小さな頃からこの温湿布が大好きで、タイミングよく服の裾をさっと上げてお腹を出します。

手当てで安心感を与える

温かさに触れた瞬間、「はぁ〜」と深いため息がこぼれ落ちます。湿布を交換するごとにからだがだんだん緩まり、息子はうっとりとした表情になって今にも眠りそう。心の深いところへ、一歩一歩近づいていくようです。まどろみの合間をカモミールの香りが漂っています。

 いろいろ大変なんだよ
 そうなんだ、それは大変なことだね
 おうちでゆっくりしたい
 自由にあそびたいよ
 そうだね
 これでいいのかな
 いいんだよ
 そばにいてほしいよ 
 素直な子だね 
 安心だよ
 もう大丈夫だよ

黙って手を当てるときというのは、お互いを感じ合う瞬間です。テレパシーのように心の会話ができるから不思議。子どもは自分の気持ちや欲求をしっかり持っているけれど、うまく言葉にできないのだと気づかされます。母親の手当ては、子どもの心に寄り添う時間そのものです。すると子どもは自然に安心感を取り戻します。お母さんが子どもに感情的な安定を与えること。それが子どもの心やからだの痛みを和らげるのだろうと私は思います。

何があっても大丈夫だという信頼を取り戻す

子どもの気持ちよさそうな顔は神聖なるもの。それを面前に私は膝まずき、息子のお腹に手を当てます。それは日々の子育てを振り返り、懺悔でもするかのような格好です。自身の言動を省み、悔い改めよ、と。

息子の気持ちを素直に認めてやれなかったこと、心の余裕が持てず言葉づかいに思いやりが足りなかったこと、お布団の中で背を向けてしまったこと。愛する者を悲ませるような失態をおかし、ごめんね、、と罪悪感に苛まれる私。

それにもかかわらず、私の胸を頼り、手のひらに身をあずけ、笑顔を向けてくれる純粋無垢な息子。私の人生のテーマは親子関係に深い関わりがあるせいか、いばらの道は確かに険しい。けれども、この子の笑顔を守ることさえできれば大概の問題はたいしたことではないのだ。「何があっても大丈夫。」そう腑に落とすまでのプロセスを辿ることができたら、カモミールの温湿布による儀式は完了です。

子どもの安心と、母性としての忍耐の助けに

カモミールの属名matricariaは、ラテン語で「子宮」を意味するmaterに由来するのだそう。産み育てる母性と関わりのあるハーブであることが示されています。カモミールは、踏まれても踏まれても立ち上がる強い草。愛する者のためならどんなことも耐え忍ぶ力の支えになる花なのでしょう。

「これが一番効くんだよね」と息子は言います。息子にとってもきっと、この手当ての記憶がカモミールの香りとともに胸のなかに畳み込まれるといいなと思います。

カモミールの温湿布

【材料】
 ジャーマン・カモミール(Matricaria chamomilla, M.recutita) 大さじ2 (5gくらい)
 水 1〜1.5L

【道具】
 鍋
 ストレーナー(ざる)
 洗面器
 ハンドタオル

【作り方】

 1鍋にお湯を沸かし、カモミールを入れ、ふたをして10分間抽出する。
 2カモミールの抽出液を濾しながら洗面器に移す。
 3ハンドタオルを浸し、軽く絞って患部に当てる。

 *キク科アレルギーの人は注意する。
 *ティーバッグにハーブを入れて、洗面器に直接抽出してもよい。(冷めないようにふたをする)

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